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魍魎拳

漫画の感想の置き場

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ninikumi『シュガーウォール』に抱くいろんな違和感


コミックリュウで連載されている『シュガーウォール』の単行本が発売されたので買って読んでいたんですが、雑誌で読んだときには読みこぼしていた情報がいろいろ見つかって作品に抱いていた印象がよりエグくなったこと、単行本の装丁に感じた違和感など、思うところがあったので、そんな話です。



公式ページの一話丸ごと試し読みなど読んでから、流すようにお読み捨てください。





<あらすじ>
主人公の柚原くんは十年前に両親を事故で亡くし、さらにひと月前に実の姉をも事故で亡くし、一軒家に一人で生活している男子高校生。そんな柚原の前に「柚原の幼馴染」を自称する素性のしれない女子大学生・黄路が現れ、柚原の身の回りの世話をしてくれるのだが黄路にはヤンデレの気があってなんか怖い。


というギャルゲーのような設定がこの漫画のあらすじであり、カバー裏の紹介分にも帯にもそのようなことが書かれています。しかしそれは私が雑誌で読んで抱いたイメージとは少し違っていて、書店で単行本を手に取った時に違和感がありました。




「甘~い青春ものかと思いきや意外や危険な匂いもプンプン漂う新感覚ラブストーリー♡」

こんな爽やかな心情で楽しめる漫画だったっけなぁ、と


戸惑いつつ単行本を買って改めてじっくりと読んでみると、やはり装丁と内容には激しい乖離がありました。私のイメージではこの漫画は黄路のヤンデレが痛気持ちいい良い!みたいな感じではなく、主人公を含む登場人物全員が織りなすサイコホラーって感じだったんす。

なんで装丁と内容に、こんな大胆なズレが生じているのか。
モヤモヤと考えたことを、以下だらんと書きます。






この漫画の主要な登場人物は主人公・柚原、幼馴染・黄路、柚原の友達・武内の三人で、それぞれが性格に何かしら傷を負っています。

武内はオタク趣味を持っていて幼馴染に押しかけ女房されてる柚原をひがむようなギャグキャラとして登場したんですが、柚原が武内の家に遊びに行ったときに不穏な発言をしています。





このシーンは、武内の柚原に対する嫉妬の感情が愚痴として漏れた場面、憎めない良い奴として描かれていた武内が描かれていない裏では劣情に苦しんでいたことがわかる、きつい場面です。彼はカバーの中では裏表紙、草間の影から柚原と黄路を見守っているんですが、この絵には武内の嫉妬の感情のようなものは感じられません。


武内君は黄路の異常性に少し気づいているきらいがあるんですが、そのことを柚原君に忠告したりしません。悪意はなくとも、柚原君への友人としての干渉が若干薄く感じられる場面もあります。

でもまあ、武内君は比較的まともで、問題は黄路と柚原です。






黄路は、非常に謎の多い人物です。

黄路は十年ほど前柚原の隣の家に住んでいて父子家庭の子、父が仕事で家を空ける間柚原と一緒に柚原姉と遊んでいたのだという。父の死をきっかけに親戚に引き取られたため柚原とはそこで分かれて以来、十年ぶりの再会となります。

黄路は独りぼっちになった柚原のもとに突然現れて強引なほどに献身的な行動をとります。あった次の日に弁当を作ってよこし、部屋の片づけをし風の看病をし、10年以上前に隣に住んでいただけの柚原に異常なほどに親切にふるまいます。ただかなりヤンデレの気があって武内から柚原への電話を勝手にとって携帯電話を破壊したり、勝手に家に侵入して合鍵を無断で作ったり、柚原が断りなく家を空けるといつまでも家で待ち自傷行為に走るという、まぁでもギャルゲーにありそうなベタな設定といえます。


これだけ見れば黄路は柚原に好意を抱いており勢い余ってヤンデレに走らせているのだと、解釈できます。



しかしこの黄路の行動は全て表面的なモノであるように思います。
黄路は柚原に対して好意を抱いているのか、はなはだ疑問です。それは黄路のヤンデレ行為が柚原を傷つけかねないということや、一話最後の駒の黄路のセリフの謎に加えて、こんな場面が作中何度も起きているからです。



合鍵を無許可で作っていたことが発覚する恐怖シーン


自分の強引な献身を柚原が受け入れると、黄路は喜ぶでもなく驚くのです。
黄路の行動が真に好意から引き起こされているのであれば、柚原に受け入れられることは本望のはずなのに、なぜか。

これは黄路が自分の強引的な行動によって柚原が恐怖してしまうだろうということを理解している、というかそれを期待しているのではないかと思うのです。黄路の真意は孤独な柚原を助けたいのではなく、虚構の善意と好意でもって柚原を押しつぶしてやることなのではないかと、一見甘い行為で柚原を圧迫する、「シュガーウォール」とはそれを指しているのではないかなどとも思うのです。一話最後の「柚原が黄路の父を殺した」という謎にも関係しているように思います。









そして、三人の中で最も異常性をはらんでいるのが主人公の柚原です。


オタクの友人、ヤンデレの幼馴染に挟まれて一番まともな人間っぽく見える柚原なんですが、人間的な欠陥を感じる瞬間がいくつも見られます。まず一つに、突然現れた記憶にしない幼馴染をすぐに受け入れてしまう、得体のしれない人間が作った弁当を食べてしまう、家に上げる、合鍵を作られても許す、柚原は黄路の侵犯行為に対して危機意識が異常に低い、というかないに等しい。何をされても受け入れてしまうし、それを疑問にも思わず踏み込んで考えようとしない。黄路の1巻最大のヤンデレ行為の後も、彼は何事もなかったように黄路と買い物などしている。黄路最恐のヤンデレ行為は、ぜひ単行本で読んで衝撃を受けてほしいっす。彼の周囲の以上に対する不感症っぷりは、気味悪ささえ感じます。


柚原の目には、武内はオタクな同級生、黄路は良くわからないけど親切かつちょっとヤンデレな幼馴染、としか見えていないのだろうか。柚原の目には「シュガーウォール」の世界は、単行本表紙のような痛気持ちいい青春モノに見えているのかもしれない、とか

記憶にない幼馴染がいきなり家に上がりこんできて、無断で友達の家に遊び行っただけで自傷行為に走るという状況に置かれて世界がこのように見える人間は、異常ではないでしょうか



「シュガーウォール」とは面倒なことを見ようとしない柚原の心のフィルターのことなのかもしれないとか、「表と裏の乖離」とか「世界の真実にあえて触れない人間の心の壁」というものが、この漫画の肝なんじゃないかなぁとか、本当にいろんなことを妄想させてもらえる作品です。


カバーを外すと中表紙が非常に嫌な仕様になってることに、今気づきました。怖ぇ





真意の見えない黄路と異常に盲目的な柚原の、死の臭いすらする表面的な関係性を「新感覚ラブストーリー」と称する単行本装丁と帯もまた、物語内の人間関係同様虚構だなぁと思うのです。もし出版社の方がそんな意図でこの装丁にしたのであれば、なんだか新しいなぁとか、詐欺まがいのジェノサイドだなぁとか、今まで漫画の装丁についてこんなにじっくり考えたことがなかったので、いろいろひっくるめて印象的な漫画だなぁと思った次第です。



一話最後の黄路のモノローグの意味とは、柚原が黄路のことを全く覚えていない理由とは、そもそも柚原姉は何で死んだのか、黄路はなぜ今になって帰ってきたのかなど、謎がたくさん残されていて、先の展開が楽しみです。

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