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魍魎拳

漫画の感想の置き場

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『異法人』was not built in a day.①

 





モーニングで最近完結した『異法人』の単行本・全
3巻を読んでいろいろと思ったことを書きます。

ネタバレまみれなので、読んでくれるという方は、気を付けてお読みください。





ハンムラビ法典を編纂したハンムラビ国王が現世にタイムスリップし、現代法と刑罰の曖昧さ、日本人が死刑を忌避していることに対して疑問を抱き、絶対強固な法によって支配された世界を作ろうとする、って話です。



 



この漫画は「死刑・私刑の是非」「人が真に罪を償うにはどうすればいいのか」「法とは」…など趣深いテーマがたくさん詰まっていて、個性あるキャラクターに緊張感あるストーリー展開云々、とにかくとても面白い作品だったんですが



 



連載が始まった当初、主人公のアオくんが発する言葉の薄っぺらさがすごく気になって、彼のことがあんまり好きになれなかったんですよね。


『異法人』は罪やら死やら、死刑・私刑に関する様々な問題が出てくるんですが、それに対するアオくんの態度がすごく優等生的というか、そんなに割り切って考えられたら苦労せんわい!って感じのぬるさがあって、イライラするんす。


母親を無慈悲に殺された親友が、殺人犯に復讐心をむき出しにしているのを見て
濁流に呑まれそうになって、一緒に木片にしがみついていた子供を水没させて殺した男に会って



 



 アオくんはあくまで「ちゃんと話せば分かり合える」という姿勢を取ります。
しかし実の母を殺された人間にそんなことができるのか、人を簡単に殺した人間と普通に接することなんて本当にできるのか、アオくんにはその辺の考えの甘さが各所に見られて、モヤモヤします。

ハンムラビ法典編纂者としての明確で厳格な思想を持って人間を罰する「アカ」(=ハンムラビ王)に対して、クラスでパシリ扱いされているアオくんの謳う正義「人を赦すことで救われる」の薄っぺらさ


 

アオくんは偽善者なわけではなく、本当に心優しい人間だから、そういうもっともな言葉が出てきてるんですが、そんな心からの言葉であってもアカの厳格な法の前では綺麗ごとに聞こえてしまうのです。母を無慈悲に殺された友人に対しても、濁流にのまれ生き延びるために子供を犠牲にしてしまった男性に対しても、アオから発せられる正義の言葉は、どうも説得力がない。





ハンムラビ王が日本人の法のとらえ方に疑問を抱いたのも、このアオくんの無抵抗・博愛の精神に実効性のなさを感じたからなんですよね

 



アオの言ってる内容はとても正しいし、彼は心からそう思っていっているはずなのに、何故こんなにも薄く感じられるのか。それはアオの同級生で、最低な前科餅オジサンに母親を殺されてしまった廣治くんの言葉に表れているように、アオは「第
3者」だからなんだと思うんす。



 



善良な普通の高校生の彼には、罪の当事者として人間の善悪について考えるような経験がない。一国の王として多くの人間を統治するアカや、母を殺された復讐心に燃える廣治に比べて、アオの発言には経験に基づいた人生観が感じられないんですよね。



 



ハンムラビ王アカは、実兄である先代ハンムラビ王が目指した「法の消滅した完全な世界」とその崩壊を目の当たりにし、厳格かつ絶対な法の執行こそ世を統治する最高のルールであると考えるようになります。柔軟にルールを改変し、全ての人間が自律心を持って生きていくことができるようになれば、法は必要なくなる、法のない世界こそ思考だと考えた先代ハンムラビ王



 

奴隷になる人間は断髪する決まりがあったのだが、先代はとっさにこれを改変





先代が奴隷に服飾を許したことで国家の生産性が上がり、バビロン王国はかつてない繁栄を迎えるのですが、アカは兄の行為が正しかったとは思っておらず



数年後、服飾を作るために輸入した木材から外来種の蛾が流入し、農作物が壊滅的な打撃を受けてしまい 、先代国王はその責を問われることになります。

 

法を覆したことで王は大きな罪を犯した、しかし法は王が紡ぐもの、誰が王を裁くのか
アカは兄の贖罪を果たすために、自ら手を下します。


 

アカの思想には実体験に基づいた根強い論拠があるのです。



 



 



「善良」って、幸せな家庭に生まれてそれなりに恵まれた生活を送っていれば、悪く言えば誰でも自然にたどりつく思想だと思うんです。つらい経験をして心が悪に揺らぎそうになったり、何か良心を試される機会にさらされてこなかったために非常に純真で、また考えが浅く感じられるんです。なかなかこの主人公のことが好きになれなませんでした。



 



 



 



しかし物語が進んでいくにつれて、アオくんの語る正義はだんだん精錬されていきました。









物語の序盤、アオの親友・廣治の母親がある男に無慈悲に殺害されてしまいます。
警察から脱走した犯人を追いつめた廣治とアオ



廣治の母を殺した犯人は極めて自分本位で罪の意識が低く、廣治の復讐心・殺意を煽ります。アオは何とか正論を語って廣治を止めようとするんですが、こんな人間を前にして殺意を止めることなんてできるわけがなく、廣治は彼を殺害する一歩手前まで行ってしまいます。しかし良心や母のことを思ってとどめがさせない。



そこで突然現れたアカが、廣治に代わって犯人を処刑します。廣治の殺意はアカによって救われ、闘争から解放されます。自分の言葉では廣治を救えなかったこと、アカの法と厳罰の執行に、自分の考えでは対抗できないということを、アオは実感します。





またあるときには洪水の中、生き延びるために子供を沈めたおっさん
自分のために罪なきものを殺したとして、おっさんはアカによって洪水に突き落とされます。
アオはそんなおっさんを助けようとして、逆に殺されそうになってしまう。





おっさんに心の奥を見透かされ、自分の考えの甘さを指摘されます。

そんな目にあってなお、こんなことを言うアオくん



彼のこの発言に、アカと同じ時代からやってきたバビロン王国の同盟国の王、シャーイルは怒り、鉄拳制裁を加えます




 



『北斗の拳』で「無抵抗こそ弱者の生きるすべ」と謳って村を守ろうとした村長が、ラオウの逆鱗に触れて八つ裂きにされたのを思い出しました。さすがにアオくんが少しかわいそうになってきます。

ちなみにアオくんをボコっていたシャーイルさんはこの左のコマの人です。彼は生前アカの思想に真っ向から対立し、ハンムラビ法典に唾を吐いたことでアカの呪詛攻撃を受けます。アカの呪詛を受けたシャーイルさんは記憶を保ったまま何度も転生し、必ず戦争の中で殺される最期を迎えるという、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムを食らったボスのような状態になり、何度目かの人生でアオとアカの時代にたどり着いたという人物です。



この人です。
死の苦しみを何度も味わった彼はアカの絶対的な厳罰主義には賛同しないものの、アオくんの語るようなぬっるい正義論には本当に虫唾が走るのだと思います。



 




アオくんは、作中何度も人の善悪・罪と罰について、限りなく当事者に近い第三者として観ゲル機会を与えられます。考えの甘さ、本当に相手を許すこととは何か、争わないことのむずかしさを身を持って体感しながらも、それでもアオくんは心を折りません。

アオくんの純粋な心は、辛い経験をするにつれて磨きがかかり、焼きが入ってより強く輝いていきます。だんだんアオくんがかっこよく見えてきました。



 





そして最終局面、ジッグラドの上でアカと対峙するアオくん。
論議の末にアカに処刑されそうになったところで、アオの論議に純真を取り戻した廣治くんが身代わりとなってアカの刃を受け、死んでしまいます。

目の前で親友を殺されたアオくんは、一瞬我を忘れてアカに刃を向けてしまいます。他人を赦す法を謳う彼は、自分の中の心の矛盾に苦しみます。



彼はついに赦す赦さないを判断する当事者となり、本当に殺人者を赦すことができるのか、真に悩むこととなります。




そして最終話、苦悩の末にアカを赦すという思考にたどり着いたアオくん



彼の「赦す法」は完全なものとなります。
このときのアオくんの思考の流れはとてもすてきでした。


それは自己完結していたアカの思想をも揺るがし、物語を通しての「法の解釈」として読者に提示されます。あんなに薄っぺらだったアオの思想は、ハンムラビ王すら打ち負かすほどの傑へと成長して、何やら感動しました。



 






 



何が言いたいかって



正義も悪も、自分が当事者となって是非を考える経験バックグラウンドを感じさせないことには、語るにあたって説得力も糞もないなって思ったんすね。どんなに綺麗な正義感を掲げられても、世界を救済するような気高い理想を語られても、語り手の経験に基づいた発想でなければなんの味気もない空論に聞こえてしまうという



 



 



漫画を読んでる時に、理由もなく正義活動に身を削っている主人公をみると違和感があったりします。困ってる人がいたら助ける、世界を滅ぼそうとするやつがいれば、みんなのためにそいつを倒す、物語のヒーローとしてはすごく当然のことで、その是非を疑う余地はない。それはそうなんですが、なんかピンと来ないんですよね。



 



一方で、悪役の理論や野望から主人公以上の説得力を感じて、反論が思いつかないケースってよくあるんですよね。またそういう時って正義役の主人公たちもすっきりした解答ができてなかったり、結局力でねじ伏せてその思想をなかったことにしてることとか、あったり云々



長くなったので続きます。
『異法人』以外のはなしです。



 



 



 


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