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魍魎拳

漫画の感想の置き場

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Within Temptation:白井弓子『WOMBS』


子宮ってすごいですよね。
あれって人体の臓器の中で脳と心臓に次いで大事に扱われてる感じがするんですよ


脳・心臓・子宮ってやつらは臓器としての機能に加えて、スピリチュアルな特殊能力・価値を付与されることも多い気がしていて、私もこれらの臓器に関して妙なイメージ、脳みそ生で食ったらその人の記憶吸い取れるんじゃね?みたいな、そんなあやふやメルヘンチックな肉肉しいイメージを抱いています。


 


私は男性なので、子宮を持っていません。


 


それは生物として当然なんですが、同じ種の動物であるにもかかわらず女性にはスピリチュアルな臓器が、男性より一つ多くついているという事が羨ましいやら気味悪く思うやらで


 


そんなことを考えていると、私は「女」とは全く違う「男」生き物なのだと、改めて認識させられます。肉体構造もさることながら、社会的役割やら人間関係のあり方やら、あらゆる社会的要素において男女の差は広く深淵です。どれだけ頑張っても、野郎の私が女性の心情と完全に同じものを想像したり、あるいは女性の目線で何かに共感したりすることはできません。


 


それでも私は少女漫画を読んでいるし、また女性がメインキャラクターを務める漫画もいろいろ読んでいます。それらの作品を読むとき、自分が女性読者と同様に、深く正確に登場人物の心情を感じ取れているかと言われればまったく自信がありません。もしかしたら男性の目線で都合よく誤解できる作品だけを私が選択して読んでしまっているのかもしれない。無意識のうちに、男受けの良いポップな女性キャラが登場する作品を選別して読んでしまっているのかもしれない。そんないやな可能性を、私は否定することができません。世間でたまに目にする「男でも読める少女漫画」というカテゴライズにも男性目線の都合のよさと恐怖を感じてしまいます。女性向け・女性主体の作品について、なるべく男性的偏見が入らないような形で読みたいというのが、私の理想です。


 


 


 


 


 


 


私は白井弓子先生の漫画が好きなんですが、この人の描く作品は女性が主人公になるものが多くて、特に女性がその性別に課せられた社会的役割に対して向き合って、あるいは反発して強く生きていくかというテーマを、異世界SFストーリーを通して間接的に表す、というものが多いです。『白井弓子初期短編集』に収録されている作品は母親としての女性の生命力の強さとか、母性的なものとは少し違った人間臭い愛情とかを描いていて、興味深いです。


 


そんな白井先生の作品の中でも、月刊IKKIで連載していた『WOMBS』という作品は、白井弓子先生自身が妊娠&出産を経験してから書き始めた作品という事で、修羅場を潜り抜けた女性ならではの凄みを感じます。


 


そしてその設定・物語は、私に男性と女性の性差をまざまざと見せつけてきます。


女性的経験の当事者となることができない、部外者としての疎外感を味わわされる、私にとって『WOMBS』はそんな感じの漫画です。


 


 


WOMBS』とはどんな話かというと


かつてファーストと呼ばれる移民は荒れ果てた惑星・碧王星に流れ着き、自分たちの住みよい星へと開墾し現地民として君臨していた。そこにはるか昔に碧王星を食いつぶし別の星へと移住していた人類、通称セカンドが突如現れ、その起源性・主権を主張、ファーストとセカンドの戦争が始まる。セカンドの科学力・軍事技術・物量はファーストをはるかに凌駕しているのだが、彼らはファーストの持つ「ある特殊な軍事技術」を前に苦戦を強いられ、戦争は消耗戦へと泥沼化する。


 


とこんな話なんですが


この「特殊な軍事技術」、要はテレポート能力なんですが、その能力を使うための条件がなんだかあれなんですね


 


その能力とは「妊娠している時にのみテレポート能力を発揮する謎の生物・ニーバスの胚を女性戦闘員の子宮で育成し、ニーバスの能力を利用してテレポートする」という能力なんですね。


 


健康定な肉体を持つ女性軍人の子宮にニーバスの体組織を植え付け育てさせる。組織が成長するにつれてテレポート能力は暗黒のn次元空間の中に正確な座法軸を設定するに至り,


1小隊を丸々戦地に放り込み退却させるアシとしての力を発揮する。妊婦だけの戦闘部隊「転送隊」の物語なんです。


 


この物語の核となっている点、それは子宮の中のニーバス組織と母体となる女性隊員との駆け引きです。


 


転送にはニーバス組織の協力が不可欠です。隊員は自身の精神の中にニーバス組織を誘い入れ、転送の座標軸を設定する「ナビ」としてその力を利用します。一方ニーバス組織は


母体の最も大切な人物のイメージをトレースし、その姿で母体をニーバス組織の精神テリトリーにまで引きずり込んで、自分を守る母親になってもらおうと仕掛けてきます。戦争の極限状況において、軍隊という閉鎖的な環境において、そのイメージは彼女たちの郷愁を強く引き立てます。また腹が膨らんでいることと、イメージ人格が母体とのコミュニケーションを仕掛けてくることから、母体は腹の中のニーバス細胞が自分にとって大切なものであるように錯覚し始めるという。


 




そこに表れるのは母性か、人間性か、軍人としての合理性か、みたいな


 


 


そんな感じで『WOMBS』には自身の子宮の中に異生物を取り入れてしまったことで自分が人間なのかニーバスなのかの境目が曖昧になったりしながらも、ニーバスの能力を活用していく女性隊員の成長・葛藤をぬらぬらと描いています。キーワードは何と言っても子宮、タイトルの『WOMBS』も即ち彼女たち転送部隊への蔑称・子宮隊からとられています。


 


 


この漫画を読むうえで、妊娠出産経験のある方やその予定がある女性読者の方が、男性ドワーフの私よりもより理解しやすく、登場人物の心情に共感・同情しやすい立場にあるのではないかと思います。私には子宮がないのだから、胎から異生物に浸食されてしまう恐怖も、異生物と分かっていながらわが子として愛着を持ち錯覚してしまう気持ちも、十分に理解できているとは思えない。子宮があっても理解できんわい!って言われるかもしれませんが、理解の可能性がある分だけ、私は子宮持ちの人が羨ましい。


  


自分の体の中で新たな生命が育ち、自分の腹の子供を守るという本能的な思考、そんな体験も妊婦ならではのもので、女性にとってはいつか自分も体感するかもしれない、あるいは感じたことのある現実の延長として想像できるものであると思います。それは、野郎の私には輪廻転生でもしない限り体験できない思考であって、想像しようにも自分の肉体・精神とかすりもしない領域にあります。


 


しかし私はこの『WOMBS』という漫画が大好きで、何とか登場人物たちと近い心情を想像して彼女らと近い気持ちでその物語の世界に身を投じたいという思いが強くあります。なにせ妊婦だけで構成された部隊、環境が閉鎖的で身内ノリ的な純粋培養された妊婦ネタが、生活様式の各所に取り入れられていてそれがなんか楽しそうで憧れるんです。


 


 


主人公たちの所属する軍事施設の食堂は二つのエリアに分かれていて、一つは普通の兵隊用。そしてもう一つのエリアの名前は「Within Only(入ってる人専用)」


 


とか、いいネーミングですよねぇWithin Only


 


ハイタッチの方法


 


ライフル構え型


 


時間の数え方


 


WOMBS』の作中にはこういった妊婦ネタがそこかしこに散らばっていて、そのどれもが軽い自虐を交えた心地よいブラックジョークで、きっとそれは妊婦当事者となった人間にしか思いつかない適度なエグみなんだと感じるんですね。戦闘呼吸法がラマーズだったり、良いなぁと思うんです。


 


私が妊婦ネタを考えようとすると、どうも血なまぐさい下品なものになってしまう。


どうあがいても部外者の侮蔑に笑いを混ぜた最低なものしか生み出せないのです。


たぶんこの男性隊員と同じようなことしか言えないし、この男性隊員この次のコマで上官に見つかってボッコボコされてるんで、私もボッコボコにされるんだろうと思います。


自分も妊娠の当事者となってオリジナルの自虐妊婦ギャグ考えて流行らせたい。


 


物語のSF的要素以上に、妊娠の当事者たる主人公達と、妊娠の部外者たる私の間の、この精神的距離って本当にでっかいなぁって思うんです。


 


出来うる限り物語の、出来事の当事者の心に寄り添って何かを読み解いていきたい、そんな風に思うのです。なので少女漫画を読むときにも、できれば少女のような気持ちで読みたいのですが、どうあがいても私は髭面のきちゃないやからであって、どこか登場人物の少女的思考についていけない、隔たりを常に感じてしまいます。


 


 


そして『WOMBS』はメインキャラが女性であるという事に加えて、子宮の有無という肉体構造の違いまでもが、私の作品への没入とか深めの共感を生みづらくさせている。その反動で私は少しでも近づこうと齧りつくように読む。深淵な溝を感じつつも私は『WOMBS』という漫画がとても好きで、こういうブログを書いてしまうまでに至っています。もし私に子宮があったら、この漫画をどう読んでいたのか、想像できません


 


話がとっ散らかりましたが、子宮ってすごい魅力的な臓器だよねってことと、『WOMBS』は子宮持つものと持たざる者との溝の深さを知る、とてもいい漫画だよって感じの話です。




そういや『ハンターハンター』の女王蟻とか『リュウマノガゴウ』でこの前破水してたあの人とかも似た感じがありますね。あとちょっと思い出したB級映画のことを蛇足で描きます。


 


自分の生命をも脅かしかねない存在を、自分の中に作りかねない臓器だなんて、いやほんとうに子宮ってすごいですね。


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