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魍魎拳

漫画の感想の置き場

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その出落ち、本当に出落ちですか:『出落ちガール』

Wikipediaによると「出落ち」とは…


登場と同時に笑いをとること。主に変な服装・格好・メイク、あるいは裸・裸に近い格好で登場すること。 いくら手の込んだ格好をしても、一度見せたらそれでお終いという「一発芸」であり、その後は笑いの効果が全く無い、傍から見ても居心地が悪い状態を晒し続ける事となる。一般人が宴会やパーティーなどの場で出オチとなる芸を行ってしまうと、このような状況に陥る場合が殆ど。


とあります。後半は投稿者の私情が挟まってる感じがしますが、私の中では


話中の盛り上がりポイントが冒頭でMaxになり、その後緩やかに話が終息する物語構成のことを指す言葉だと認識しています。




Wikipediaの記事もそうなんですが、「出落ち」って悪い意味で語られることが多いように思うんですよね。設定とか見た目の奇抜さで瞬間的な熱狂を呼ぶものの後半ダレてしまって、結果「あんまりおもしろくなかったな…」って印象で締めてしまう感じ、「出落ち」はそんな意味で使われてるように思います。



では、「出落ち」そのものを題材にしたこの漫画は果たして「あんまりおもしろくない」漫画なのでしょうか?

鈴木小波短編集『出落ちガール』



全てが奇抜な設定の「出落ち」モノで、短編のタイトルも思い付きでやっちゃった感がビシビシ伝わってくるものばかり




『脱エバ』
謎の野球拳少女エバとの野球拳真剣勝負

三途の川で亡者の衣服を剥ぎ取る脱衣婆(だつえばばあ)をもじったタイトルが秀逸です。




『おかんゴースト』
喧嘩三昧の不良息子を優しく見守る母(幽霊)が憑依金縛りを駆使して敵を撃退する話

おかんだけど若くして亡くなった方ということで、ガール判定です。おかんの悪寒




『クーパー伊藤さん』
ミニクーパーカー(10cm)から出てきた謎の脱出ミニチュア少女の話



なんかどっかで聞いたことある決め台詞





『ヒトミとゴクー』
山の主ゴクーを鎮めるために人身御供(ひとみごくう)に出された生け贄少女ヒトミの話

なんてふてぶてしい生け贄



等々…




設定の情報だけ並べてみると本当に清々しいほどに「出落ち」、しかしその実は起承転結のしっかりと整った素敵読切の集まりであって、全くもって「出落ち」ではないんですよね。



『おかんゴースト』は幽霊の母ちゃんを煙たがる不良息子が、煙たがりながらも見せる母ちゃんへの優しさにグッと来ます。またおかんが息子を守るために頑張る姿も素晴らしいです。設定のわりに話の肝はとても優しい親子愛で彩られています。






寄生虫ダイエットに挑戦するぽっちゃり女子高生と、その子に片想いするノッポ男子の話『エイリアンダイエット』では

素敵なキャラクターの女子高生が


エイリアンダイエットに成功して激ヤセするんですが


どこにいてもぽっちゃりな体と突き抜けるような笑い声ですぐにわかったのに、痩せて美人になってしまった彼女を人ごみの中から見つけられなくなってしまった、と悲しむ主人公の心理描写が凄くよい感じです。ラブコメの青臭さ完璧です。




『ヒトミとゴクー』では孤独な少女と人を喰う化物の、人社会から退けられたもの同士の『モンスターズインク』みたいな優しい触れ合いがあったり



無表情なヒトミを泣かせてやろうと頑張るゴクー



タイトルとか設定とかふざけたところも多いんだけど、なんだかんだ最後のオチでは泣きそうになってしまうような、本当に良い話が多いんです。盛り上がりポイントを冒頭で使いきってしまう「出落ち」ではない、『出落ちガール』の盛り上がりポイントは冒頭と締めの二段落ち展開なんですよね。本当に良い読切
集です。


『出落ちガール』の『出落ち』はある種自虐的なネーミングで、力強い設定としっかり組まれたストーリーの二つの要素が整った、「良い漫画」というのが私の抱いた印象です。


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奇抜な設定でインパクトばかりが先行して、「出落ちモノ」だと思われてる漫画って割とあるなって思うんすよね。

私は北崎拓先生の『クピドの悪戯シリーズ』が凄く好きなんですが、これらの作品は全部設定がエロ方向にぶっ飛んでて、知り合いに薦めると「ああいうエロイ漫画も読むんだ…(ムッツリエロガッパめ…)」みたいな感じでちょっと引かれたりするんす。


例えば『さくらんぼシンドローム』は…


主人公のもとに現れた謎の少女は体がどんどん若返っていく奇病にかかっていて、その進行を遅らせる酵素を奇跡的に主人公が持っているんだけど、その酵素は唾液から分泌されるのでキスで摂取するのが一番効率的。
少女が順当に年を取って生きていくためには主人公が毎日キスをしなくてはならない、って設定。



また『このSを、見よ! 』は


主人公の臀部には生まれつき奇っ怪なアザ(スティグマ)があり、そのアザを見た女性は必ず主人公に惚れてしまい一発ヤルとその魔力から解放される、という、まぁエロ漫画みたいな設定なんすね。




ただこの『クピドの悪戯シリーズ』はただ主人公がエロイことする漫画ではなくて、このエロ漫画みたいな設定に人生を振り回されてしまう主人公や女性キャラたちの凄まじい愛憎劇なんす。昼ドラに近いものを感じますね。

『このS』の主人公はアザのせいで他人からの愛情に懐疑的になり、人間不信に


『さくらんぼシンドローム』のヒロインは自らの運命を呪い、自殺を考えるほどに苦しみます。




北崎拓先生は表情の描き分けとか、悲しさの表現が本当にえげつなくてすきです。

登場人物一人一人が、20数年の人生を生きてきた人格あるキャラクターとして描かれていて、彼らの一回きりの人生がその設定のせいでズタボロになったりより強い人間へと成長させたりと、「出落ち」とは呼べないエグみのあるストーリー漫画なんすね。『クピドの悪戯シリーズ』。めっさ面白いんですよ。本当に



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最初の方読んで「出落ちモノ」と思ってしまうような物語も、ちゃんと後まで読んでみたら素晴らしいストーリーを紡いでいたりします。それを自分の力で見極めるのはちょっとめんどくさかったりもするんですが、設定とストーリーの双方のパワーを兼ね備えた最強の作品に出会うためには、「出落ちっぽいもの」を「出落ち」と切り捨てずしっかり作品に向き合ってみることが大事かななんて思いましたよ。



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