漫画の感想の置き場
私は煙草を吸いません。
いつか自分も吸ってみたいなぁとか、煙草が似合うような人間になりたいなぁとは常々思っていたんですが、中高時代とか高校卒業後とか、イキるのに絶好の機会に煙草に挑戦することができずにそのままズルズルと機を逸し続けて、今に至ります。挑戦しなかった理由は、まず自分に煙草が似合うとは思えなかったこと、憧れはあれど、どうしても煙草を吸いたいという強い衝動がなかったこと、なんかが挙げられます。
特に煙を嫌っているわけでもなく、今でも小学生中学生のころと同じように、煙草に対する子供じみた憧憬を抱いています。煙草が似合う人間を見ると中身関係なしに目を奪われるし、知り合いなら問答無用で好感度が上がります。
そして今日本屋でこんな漫画を見つけてすごくそそられたので、エロ本でも買うような気持ちでソワソワと買ってきたのでした。
「こいつ煙草吸わないくせにアンソロなんて買ってるぜ!助平!!」とか言われないか、店員さんに非喫煙者であることがばれたりしないかと、なぜかソワソワしたのです。そして予想をはるかに超えて良い漫画だったので、なんか書きたくなったので、書くのです。
表紙イラストの奥浩哉・大暮維人両先生もそうなんですが、執筆陣がすげぇ豪華です。漫画にはすぎむらしんいち、ふみふみこ、きらたかし、浅野いにお、太田垣康男、オノナツメ、横槍メンゴ、水薙竜etc.…。イラスト寄稿には大高忍、清原絃、村田雄介、うめ、藤原カムイ、村田蓮爾、めいびいetc.…。
私が名前を知っていた作家さんだけでこんなにいます。
そして巻末の作者コメントを見るかぎり、執筆陣の中にもヘビースモーカー・禁煙中・非喫煙者といろんな人がいて、煙草の持つ魅力をいろんな角度から感じることができる仕様になっています。煙草がヘビースモーカーの精神にもたらす安らぎ、煙草を嫌っている人間の苛立ち、煙草を吸っている人間の魅力、吸い始めの戸惑い、喫煙者に惹かれる人間の心情など、吸う人も吸わない人も余すことなく拾ってくれます。
私は煙草を吸ってる人に惹かれていながら、チキンなあまり一歩踏み出せず非喫煙者に留まるジャリガキです。
そしてこのアンソロジーは私のような微妙な立ち位置の人間の心情もカバーしてくれています。「かっこいい喫煙者」についての話も当然あれば、「喫煙者にあこがれる非喫煙者」の話なんてのもしっかりある、ありがたいです。煙草吸ってる人のカッコ良さも見せてくれるし、喫煙者に憧れるキャラへの共感も得られます。
以下、特に面白いと思った収録作品を挙げてみます。
太田垣康男『ロング・ピース』
造船所から依頼主の基へと処女航海をしていた宇宙船が超新星爆発に巻き込まれて、爆発に伴う特殊光線によってDNAを破壊された船内の乗組員が次々にクリーチャー化、サバイバルを生き抜いて唯一の生き残りとなった主人公。
救助される望みはなく、自らも徐々にクリーチャー化していく中で倉庫の煙草の在庫も切れて絶望する主人公ですが、まだ自分が人間である内に最後の煙草を吸いたいと願い、クリーチャー化の進行に抗いながら正気を保っていきます。
煙草が切れるとソワソワしたり落ち着きがなくなったりする喫煙者の方はよく見ますが、手持ちの煙草が切れたことで理性を失うのを踏みとどまり、結果人間として生きる時間を延長したという皮肉めいた展開が、この話の好きなところです。
死の直前に思い返してもう一度生気を取り戻すほどの存在が、自分には思い当りません。最後の一服とか、そんな言葉にさえ憧れを感じます。この喫煙者さんすごくカッコいい。
②喫煙者にあこがれる、非喫煙者の話
浅野いにお『としのせ』
大学は親の勧めで地元の大学を受験、交際している男子は非常に真面目で「自活できるまで貞操は死守」などという、周囲の人間の合理的で大人気ある言動に退屈さを感じているヒロイン。年の瀬になると現れる胡散臭いアウトロー感を漂わせた叔父に淡い期待を抱いて、性的なポーズで挑発してみるも不発。かつて彼が吸っていた煙草も「彼女に言われてやめた」と言われ心底がっかりした彼女は、大人になれない自分を認めつつせめてもの反抗として、叔父に煙草を吸ってくれとせがむ。
反抗期が緩やかに収まりつつある時期に、大人へと成熟することへのためらいと反抗の名残がせめぎ合い、ささやかに背伸びして背徳感を味わおうとするヒロインの心情がかなりグサリと来ました。社会・性・煙草という三つの要素が青年期の不安定な精神を惑わせる感じ、グサリと来ました。
ふみふみこ『金色の飴 星の煙』
若い叔父(23歳)に恋心を抱く小6のヒロイン、クラスの男子なんかとは違う大人の世界に入り込んでいるのだと自信を持っていた彼女は、叔父の煙草をいたずらに吸ってみたところ「ふしぎのメルモ」風に大人の体に変身してしまう。
子供っぽい味付けのご飯を嫌がり、大人っぽい叔父とのつながりである煙草を吸うことで、大人の世界に帰ろうとするヒロイン。何故かこの煙草を吸うと、彼女はボインと成長した大人の女性の姿に変身します。
「大人の体を叔父に見せればもっと愛情を注いでもらえるはず」と喜んでその姿を見せに行くヒロインであったが、女性への免疫がないためにヒロインに近づいていたロリコン叔父は見知らぬ成人女性が自室に忍び込んできたことに恐怖し、錯乱して彼女を「悪魔だ!」とそしる。
ヒロインが叔父に投影していた大人像は大きく崩れ、自身もまだまだ大人のことなどよくわからない子供であるということに気づきます。
それでもなお残る大人への憧れは、たまに煙草を吸って大人の姿になり男を誘惑する行為に表れるようになる。
この話は先ほどの浅野いにお先生の話に少し似ているんですが、二人のヒロインの思う「大人像」が少し違っていますね。
『としのせ』では世相に上手く従って生きる大人への反発が、ヒロインの反社会的なものへの憧れを誘発し、その象徴として煙草が充てられていました。叔父は大人のなかでも退屈でない、最後の希望だったのかもしれません。大人は世相に従う、退屈な存在です。
一方『金色の飴 星の煙』は小学六年生から見上げた漠然とした大人の世界の中で、ヒロインにとって最もわかりやすく大人を想起させるものとして煙草が登場しました。そこに社会への反抗心や背徳感はなく、精神年齢の高いものに対する純粋なる憧れの結果、喫煙という行為に至っています。大人は子供より上にある、格の高い存在です。
私の中学~高校時代には上の二つのような感情は、あまりなかったです。
まぁ私は男で上の二つはおなごの話なのでそもそも大分違うんだと思いますが、「煙草は20歳になってから吸うものだ」とかガチガチに考えていた自分はむしろ不健全だったように思います。
この他の作品もまた、とても良い形で煙草が登場する良い話ばかりでした。
goodアフタヌーンで連載中の水薙竜『ウィッチクラフトワークス』の煙草にまつわる番外編も収録されています。びっくりしました。
嫌煙の風潮強まる昨今、喫煙を推奨するでもなく様々エンターテイメント作品に登場する煙草の魅力を再確認させる、面白いアンソロジー本だったなぁと思います。
この本を読んで煙草が吸いたくなったかというと、まぁそうでもないんですが、喫煙者、煙草の似合う人に対する憧れは一層強くなりました。
いつ煙草吸い始めても恥をかかないように、煙草の似合いそうな人間になることを、まず目標にしようと思います。
プロフィール
カテゴリー
最新記事
P R