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魍魎拳

漫画の感想の置き場

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ギャル男vs宇宙人

ビッグコミックスピリッツにて集中連載されていた『ギャル男VS宇宙人』の単行本が発売されてたので買って読んでたんですが、まー面白かったのでその話をします。


氣志團・綾小路翔 太鼓判


作者はヤングチャンピオン『足利アナーキー』ヤングマガジン『デザート』の吉沢潤一先生、ヤンキーの本能的な言動を独特の文脈で描く方です。

この人の何がすごいって、登場人物の会話が物語上ぎりぎりのラインで成り立っていること、ヤンキーの動物的な言語コミュニケーションをかけるってことなんですよね。

ヤンキー・不良漫画って『湘南爆走族』から『クローズ』『ウダウダやってるヒマはねぇ!』『ギャングキング』『荒くれnight』『湘南純愛組』など数多くあるわけですが、往々にして主人公たちは結構頭がいいというか、コミュニケーションは一般人以上に滑らかだし組織間抗争や統治に関して卓越した能力・頭脳を持っています。

ざっくりいうと、皆とてもしっかりしていて、いろいろ考え悩みながら生きてます。これはすごく漫画的というか、現実にはヤンキーの皆が皆そんなにかっこいい生き様をとれるわけではなくて、もっと本能的に刹那的に生きてる人が多いと思うんすね。それでも漫画として読む分にはしっかりしたキャラクターが主人公やってる方が読みやすくてありがたくて、なにより頭のいいヤンキーってとってもかっこいい。


さて、この『ギャル男VS宇宙人』の登場人物はどうかというと、これはかなり現実的なギャル男をイメージして書かれていて、会話から行動から何までめっちゃ本能的・動物的、漫画の不良らしいカッコよさや頭の良さがない。渋谷あたりにごろごろいそうな感じの、近寄りがたい感じの人がわんさか出てきます。むしろヤンキーの不良としての側面を全力で引き延ばしたような


たとえば主人公の村田くんとテツさんがほかのギャル男グループの下っ端に絡まれた時の会話がこちら。



意味をなさない感情むき出しの会話、ヤンキーって実際こんな感じですよね。やくざ映画に出てくる演出された凄みも怖いけど、私はこういう半端なイきりの方が生々しくて怖いです。レトリックではなくエモーションで戦ってるギャル男の生態が伝わってきます。

その他にも大麻を家庭栽培してたり古今東西あらゆる毒物をコレクションしてる売人がいたり、仲間内でキノコ炒めてこたつを囲んで集団トリップしてたり、自分とは全く違う環境で生きるギャル男たちの日常がごろごろ出てきて、それを見るだけでも非常に面白い。ヤンキー漫画の少ないスピリッツのなかで、ギャル男達はまさに異種の存在感を放っていました。



そして、そんな刹那的な生き方をするギャル男たちのもとに突然現れた宇宙人。



村田君とテツさんは、宇宙人と援効して変な性病にかかっちゃった女友達ミュウの仇討のために、たった二人で寄生獣風の宇宙人と戦います。とてつもない怪力と自由に変形する肉体を持つ宇宙人に、生身のただのギャル男二人がどうやって戦うのか━。

「人類亜種・ギャル男VS異種・宇宙人」「未知VS未知」というのがこの漫画の肝なんですが、そんな『エイリアンVSプレデター』的な側面のほかにも、主人公含むギャル男達の生き方にもいろいろと感じることがありました。



村田君は顔がすごくデカくてツンツンに逆立てた髪の毛と合わせると「三頭身」になってしまうぐらいアンバランスな外見をしているんだけど、彼めちゃくちゃ良い奴なんですよね。先輩のテツさんや仲間のことが大好きで、仲間のためにすぐ体張っちゃうんす。彼が宇宙人と戦う羽目に合った女友達ミュウは周りから「痛い子」呼ばわりされていて、何度辞めさせてもすぐ円光するし、薬やりすぎて死にそうになったこともあるしで、腫物扱いをされているんですが、村田君はそんな彼女に対してもめちゃくちゃ優しい。ミュウが変な性病にかかっちゃったのもそもそも彼女の責任なんですが、それを責めることもせず、ガクガクにビビりながら宇宙人に対決を申し込みます。その姿はちょとかっこよくて、少年漫画の主人公っぽくも見えます。

また先輩のテツさんは、「ミュウは都会に合わない」と言って彼女を擁護する村田君に対して「自分で選んだ結果を環境や才能のせいにするな」と一喝する一方、厚い人望を駆使して宇宙人をぶちのめす準備を根回ししていたり、非常に他人思いな一面があります。

物語終盤には彼らが地方を出て東京に出てきた経緯がほのめかされるシーンがあり、彼らもまた表に出さないだけでいろんな心の傷を,、容貌と生まれという変えることのできない「環境」と「才能」を背負い乗り越え上京を決意したのだということが分かります。


他のギャル男達はいちいち言動が感情的・現実的で、宇宙人を追いかけまわしながら村田君が仲間に応援を呼ぶんですが全然話を聞いてくれない。しかし、業を煮やした村田君が相手に罵声を投げかけ挑発するとすぐさま反応し、深夜に渋谷にまで駆け出してくるという、異様な行動原理。


会話だけ抜粋
村田「今宇田川で宇宙人追いかけてんですよ…マジ来てくださいよ~」
ゴーさん「あのなバカ、マジ遊んでらんねぇの。今忙しんだよ。」
村「てめ~~~ビビッてんだろぉ?」
ゴ「ん?」
村「ん?じゃね~~よバーーーカ」
ゴ「はッ、は~~~~~~?」
村「ヴァ~~カ。ウンコマンウンコマン。一生ネクラ人生頑張ってね。ギャル汚先輩。」
ゴ「オイ…行くぞ、渋谷。」
電話で用件伝えるとか事情説明するとかめんどくさいよね。これで人間関係壊れないんだからギャル男すごい。



そのあとギャル男何十人かで宇宙人を空きビルに追い詰めるんだけど、そこからのギャル男達の行動もまた不思議。



「宇宙人のちんこしゃぶったし帰りまーす」はSF史に残る名言ではなかろうか。自分たちの行動・生活にすべての基点を置く彼らにとって宇宙人の目的とか由来とかそういった「真実」は全く持ってどうでもいいことで、「珍しい生きモノめっけたwwツイッターにあげてみんなに見せよ」っていうその場の楽しさ、仲間内との遊びといった「現実」のみがリアルで大事何すね。置いてけぼりくらった宇宙人と村田君とテツさんがこの後どうなるかは、是非単行本で読んでみてください。

こういう「異種VS異種」系の創作物で片方が人類ってのが珍しくて読んでいましたが、ヤンキー漫画としての魅力もあり、サイケデリックなトリップシーンの魅力あり、村田君は良い奴だし、面白かったですよ。『ギャル男VS宇宙人』

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