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魍魎拳

漫画の感想の置き場

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富沢ひとしの漫画について思うこと全部



富沢ひとし先生の漫画を久々に読み返してみました。何度読んでもそのインパクトは衰えることなく、今回も面白いな面白いなと目いっぱい楽しんで読んでいたのですが、何度読み返しても「なんで私はこの漫画を面白いと感じるのだろう」と不思議に思ってしまう、富沢ひとし漫画の面白さとはなんなのかを未だに解明できずにいます。

その理由はたぶん、富沢ひとし先生の漫画には手放しには褒めにくい不安要素というか、好きになれない部分もたくさんあって、でもそれを差し引いて余りある好き要素があって、読後に妙な葛藤が生まれてしまうのだと、思うのです

好きか嫌いかと聞かれれば飛び抜けて大好きですが、他人に勧めるにあたってココが面白い!と良いとこばかり紹介するわけにもいかん、

特に結論めいたまとめもなく、とりとめもなく、私が富沢ひとし漫画について「面白い」と思ったこと「これはちょっと…」と思ったこと、それらを全部吐き出します。



まずは私が読んだ作品の紹介



『エイリアン9』全3+1巻 ヤングチャンピオン
謎の隕石落下以来、不定期に現れ人類を襲うようになったエイリアン、全国の小学校では6年生の児童から各クラス一人ずつエイリアン対策係として選抜し、その退治にあたらせている。エイリアン対策係には寄生生物「ボウグ」が支給され、その攻撃能力を利用してエイリアンの捕獲に当たります。



ヘルメット型で頭に装着します



物語終盤になると来襲するエイリアンは人間をホストとして寄生発展を目論む「ドリル族」による差し金であることがわかり、エイリアンとの戦いの中で成長した児童を(ドリル族)寄生生物「ボウグ」と共生同期させることで安定した寄生を実現するための計画に、主人公たちが利用されていたことがわかるなど。アニメ(OVA?)化もされている、富沢先生の代表作ですね。




『ミルククローゼット』全4巻 アフタヌーン
突然平行宇宙へとジャンプしてしまう奇病『リーズル症候群』が流行し、別宇宙の生物に殺されかけたところを謎の寄生生物「しっぽ族」に助けられた主人公達が、その他の行方不明者の救出のために「Macrocosmic Invincible Legion of Kids」略して「ミルク隊」として様々な宇宙に飛び、異種生物との戦いに身を投じる、という話。

途中から全平行宇宙の生態バランスを統括運営する超的な存在による思惑が明らかになってきて、「しっぽ族」の寄生・吸収能力を利用した宇宙再構築計画が発動、すげえ壮大です。




『特務咆哮艦ユミハリ』全4巻 バーズコミックス
かつて起きた時間圧縮事故の結果大地の大部分が消滅し、九州地方に存在した過去と現在と未来の軍隊が一堂に会し、勝利したものの時間だけが存在を維持できるという、すげぇ言葉で説明するのが難しい、富沢ひとし漫画の中でも特にこんがらがる難解な物語です。
この作品特筆すべきは、富沢ひとし漫画で唯一可愛いと感じたキャラがいることです。




『プロペラ天国』全1巻 ウルトラジャンプ
「普通人間」と「合成人間」が共生する世界、主人公の桜田小鐘と桜田小糸はそれぞれの種族のサンプルとしての役割を課され、謎の古文書的文献「」に記されたシナリオ通りの世界を実現するまで永遠に同じ時間軸が繰り返されていく、てな感じの話。小鐘・小糸のどちらか一方でもシナリオを外れるような理想的でない言動をとれば、即合成人間軍団によるプログラム初期化がなされ、「はじめから」になってしまう、恐ろしい。




『ブリッツロワイアル』全2巻 ヤングチャンピオン
原案・高見広春とあるように、「バトルロワイアル」、主に「バトルロワイアル2」の設定をもとに富沢ひとし風味に改編されたゼロサムバトル漫画。富沢ひとし漫画の定番、うじうじした女子主人公、中盤で闇落ち狂乱バーサーカー化する女子主人公、最終的に人間ですらなくなる女子主人公はきっちり守られているのですが、なんというか、やっぱSF展開、クリーチャー魑魅魍魎乱交パーティー感がほしいというか、あんま面白くなかったかなぁと




『ゆめにっき』Web連載 まんがらいふWIN
こちらクリックでweb連載サイトに飛べます。
RPGツクール発のメンヘラ大好きメンヘラフリーゲーム「ゆめにっき」のコミカライズ、現在第八話まで~で公開されていて、次回最終回のわくわくうひょうです。原作は夢の世界に散らばる12のエフェクトをすべて集めればゲームクリアとなる、特にシナリオといったモノのない自由度の高い探索ゲームで、主にメンヘララな世界観を楽しむ作品なんですが、コミカライズではその世界観への解釈が提示されていて、ゲームに登場するキャラクターにも物語上の役割が与えられていて、原作ゲームと併せて読めば1.8倍ぐらいの楽しみ方ができるように思います。ウボアさんとかセンチメンタル小室マイケル坂本ダダさんとかセンチメンタル小室マイケル坂本ダダさんとかね

ちょっと前までは全話公開されてたんですが今は第一和と再神話のみ公開されてるようで、これは単行本化されるのでは?と期待しています。わっしょい



『エンチャントランド』Web連載 画楽の杜
画楽の社で無料公開中。こちらは最新話まで全部読めます。

現状富沢ひとし先生の最新作となります。第九話まで公開されていますが今のところ大きな物語の動きはなく、しかし毎回衝撃的なインパクト大な絵をぶちまけてくれるので、毎月とても楽しみに読んでいます。特に主人公の持つ空間移動能力、瞬間移動の新しい捉え方が提示されていて、その表現方法は一見の価値あり、とか思います。


『肥前屋十兵衛』とその他読切は、恥ずかしながら読んでいないです。



以下、思うことをひたすらに書きなぐっていきます






①キャラデザインがうーむ
富沢ひとし先生の漫画に出てくる人間、メインキャラクターたちのこの顔



これが全く好きになれなくて、非常に苦手です。富沢ひとし先生は刃牙シリーズでおなじみの板垣恵介先生のもとでアシスタントをしていたそうで、卓越した画力を持っているはずなんですがなぜか人間の顔の描き分けはされていません。男女の見分けも難しく、名前と顔を一致させるのにかなり時間がかかります。

ウィキペディア情報によると、落書きしてたらたまたま可愛らしい絵が描けたのでそのままこの絵柄を採用してしまったそうなんですが、私にはどうもかわいいと思えず、先述の特務咆哮艦ユミハリに登場するこのキャラクターがとてもかわいく感じられます。



感覚がマヒしてるのかどうかもよくわかりません。






しかし富沢ひとし先生の絵がすべて苦手かというとそうではなくて、人外クリーチャーのデザインは一転大好物です。












富沢ひとしクリーチャーの特に好きなところは、その生態が人間の全くおよび知らぬところで確立されている感がビシビシ伝わってくるところで、平行宇宙の生き物といわれてすごくしっくりくる、異物感が最高です。



おふおふおふおふおふ




ベチュ
ミルク隊の制服はなぜかスクール水着


のろのろ





こっそり卑猥な造形ぶち込んでくるところも楽しい。







特に『エイリアン9』『ミルククローゼット』に登場する、人間と共生する寄生生物の生態は物語の面白さの肝となっています。

エイリアン9のドリル族

ドリル族はその宇宙で最も知性の高いと思われる生命体と共生し、肉体と引き換えに強力な攻撃力を与える、数あるエイリアンの中の一種族です。彼らは共生のポストとして人間に目をつけ、訓練用の弱いエイリアンを計画的に人間たちに差し向けて強い強制母体へと育成していく、えげつない生命体です。彼らに強制された人間の意識はあまり人間的であるといえず、人間世界に順応したエイリアン、というかほぼドリル族に意識を浸食されてしまいます。上の画像は体の大部分をドリル族に浸食され、他の強制母胎を求めるようになった主人公の元親友さん。


エイリアン9のイエローナイフ

日向ぼっこするエイリアン「イエローナイフ」、とてもいい表情をしています。

イエローナイフというエイリアンは基本的に無害なんですが外敵から身を守るために、その地域に住む生命体を体内に取り込んで、その生命体にとって最も効果的と思われる妨害電波を作り出し身を守るという、ウルトラ怪獣のような生き物です。作中では人間を取り込み、周囲の人間の視界に人間が映らなくなる妨害電波「ひとりぼっち」を放出し、主人公たちを精神的に追い詰めていました。しかしその電波も破られ主人公たちからガスガス攻撃され、涙を流しながら絶命していくという、本当にウルトラ怪獣的な哀愁を持つエイリアンです。ペンギンっぽい見た目もよいですね。


ミルククローゼットのしっぽ族

しっぽ族も基本的にはドリル族と同様、人間を繭として自分たちの安住できる宇宙を作り出すことを目的としています。このもこもこした再生玉をもとに、周囲の生き物の生体情報をトレースして全く同じ生き物としてコピーすることができます。ミルククローゼット1巻の時点で主人公たちはみんなこのしっぽ族コピーによって再生されていて、ミルククローゼットは人間の姿を盾にしたしっぽ族による異種生命体間の代理戦争となっています。




富沢ひとしの絵は基本大好きだけど、キャラデザとかちょっと嫌いなところもある、微妙に仲のいい友達に対して抱いている感情って感じがしますね





②時間・宇宙などに関する独特のSF概念

私が読んだ富沢ひとし漫画は全てSFモノで、それぞれやや難解な、時間論・宇宙観を題材にしています。平行宇宙を自在に移動する能力、閉鎖的で何度も繰り返される時間軸の中で物語が思いもよらぬ方向に進んでいくのが、とても楽しい。

ミルククローゼットの大人宇宙

宇宙はいくつも存在して母体となる宇宙からまた小さな宇宙が生まれていくみたいな話は読んだことあるんですが、あまた存在する「子供宇宙」全てを養分として一つの強固な「大人宇宙」を作るという発想、初めて出会いました。



エンチャントランドの瞬間移動
五円玉を回している間だけ三次元空間から主人公が脱却し、旧RPGの盤面のように平たくなった世界を歩いて移動する空間移動方式。常々抱いていた、瞬間移動とかワープとかしてる時自分の周囲にはどんな景色が見えるのだろうという謎に、一つの仮説を提示していただいたような感じです。平たくなった世界が戻り始める時の恐怖とか、自分でも超能力の正体を把握してないのも謎が深くて良いですねえ『エンチャントランド』



特務咆哮艦ユミハリの螺旋時間の玉突き事故








時間はらせん状に進行していて、突如時間が進む先が消失し壁に激突、これにより過去と世界が押しつぶされてしまった世界、それが『特務咆哮艦ユミハリ』の舞台設定です。ぶっ飛んでますね

面白いSF設定に毎度毎度感動しています。




しかし一方で、富沢ひとし漫画の主人公たちは外敵と戦うために妙な攻撃の能力を身に着けるんですけど、これがなんというか、「こんな力欲しい!」と思わせない何かが、とてつもない何かが


『ミルククローゼット』主人公
またこの子はうじうじした性格でなかなかに、きつい



『プロペラ天国』主人公

ううん

世界設定、時間・宇宙とかの概念はめっさ面白いなぁと感動するんですが、人間の能力やら性格やらに関しての設定が、なんか、なぜだ!と叫びたくなるような、キャッチーさの無さでまた、ううん




③ぼんやりとしたシナリオ説明

富沢ひとし漫画の多くは、シナリオにおいて新世紀エヴァンゲリオンに非常に似ています。正体不明の異形と突然戦わされることになった若き主人公、世界・宇宙・生態系などマクロな視点での人類を犠牲にする再構築計画の存在とその執行主体の存在、主人公たちにコンタクトを図る敵からの使者、ぶっ壊れた主人公の暴走、シナリオの崩壊、不完全な計画の実行→終焉という、これらの要素は富沢ひとし漫画に良くみられるもので、これだけ見ればエヴァンゲリオンのそれとそっくりで、みんな大好きなカレーハンバーグ定食なんですが、そこはやっぱりエヴァンゲリオンって凄いなっていうか

富沢先生の漫画、難解な時間概念やら宇宙再構築計画とか多用する割に説明がすごく感覚的な言葉で済まされていて、理論立てた謎解明がなく、読者の自主的な理解努力にかなりの部分が委ねられているんす。物語のエンディングにつながる重要なシナリオ、「ミルククローゼット」における大人宇宙形成計画、「エイリアン9」における寄生生物の特性、「ゆめにっき」に秘められた謎、これらは全て回りくどい言い回しで二言三言触れられるだけで、それらがどんな概念であるかは行間から全力で拾い集めても分かるかわからないかのギリギリのところにあって、頭にスパッと入ってこないんす。



これは『特務咆哮艦ユミハリ』で、時間戦争に負けた河童民族の時間が停止するときのコマなんですが、何が起きてるのかよくわかりません。



その点エヴァンゲリオンって「人類補完計画」っていうかなり抽象的でスピリチュアルなエンディングもそうだし、しんじ君の母ちゃんの魂がエヴァンゲリオンの中に取り込まれていることとか、綾波レイという生物の存在意義とか。しんじ君は全然わかんないよ!って言ってるけど読者目線では割と感覚だけでも理解できるラインに、説明が薄くなりすぎずわかりやすくもなり過ぎない、読者の興味と理解への努力を絶妙にあおるいい具合ですよねえ


富沢先生漫画、行間を必死こいて探すのも好きっちゃ好きなんですが、読後のカタルシスがなかなか得られないってのも不安要素の一つなんだろうなと思います。

でも毎話毎話の絵の衝撃はすさまじいし、謎がどんどん深まってこんがらがってくのを楽しむ浦沢直樹漫画と同じ成分もあり、全く理解できずに二周目に突入するときの敗北感、全く好きになれないキャラクターデザインへのもやっとした苛立ち、富沢ひとし漫画を読んだ後の私はなにがなんやらわからない、しかしこんな気持ちになれるのは富沢先生の漫画だけ!

ちょっと言いたいことがごちゃごちゃして話まとまらず、ブログとしてどうなのかとも思いますが、わたしが富沢ひとし漫画について感じていることは全部書きました。総じて大好きです、富沢ひとし漫画。



もえ



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ninikumi『シュガーウォール』に抱くいろんな違和感


コミックリュウで連載されている『シュガーウォール』の単行本が発売されたので買って読んでいたんですが、雑誌で読んだときには読みこぼしていた情報がいろいろ見つかって作品に抱いていた印象がよりエグくなったこと、単行本の装丁に感じた違和感など、思うところがあったので、そんな話です。



公式ページの一話丸ごと試し読みなど読んでから、流すようにお読み捨てください。





<あらすじ>
主人公の柚原くんは十年前に両親を事故で亡くし、さらにひと月前に実の姉をも事故で亡くし、一軒家に一人で生活している男子高校生。そんな柚原の前に「柚原の幼馴染」を自称する素性のしれない女子大学生・黄路が現れ、柚原の身の回りの世話をしてくれるのだが黄路にはヤンデレの気があってなんか怖い。


というギャルゲーのような設定がこの漫画のあらすじであり、カバー裏の紹介分にも帯にもそのようなことが書かれています。しかしそれは私が雑誌で読んで抱いたイメージとは少し違っていて、書店で単行本を手に取った時に違和感がありました。




「甘~い青春ものかと思いきや意外や危険な匂いもプンプン漂う新感覚ラブストーリー♡」

こんな爽やかな心情で楽しめる漫画だったっけなぁ、と


戸惑いつつ単行本を買って改めてじっくりと読んでみると、やはり装丁と内容には激しい乖離がありました。私のイメージではこの漫画は黄路のヤンデレが痛気持ちいい良い!みたいな感じではなく、主人公を含む登場人物全員が織りなすサイコホラーって感じだったんす。

なんで装丁と内容に、こんな大胆なズレが生じているのか。
モヤモヤと考えたことを、以下だらんと書きます。






この漫画の主要な登場人物は主人公・柚原、幼馴染・黄路、柚原の友達・武内の三人で、それぞれが性格に何かしら傷を負っています。

武内はオタク趣味を持っていて幼馴染に押しかけ女房されてる柚原をひがむようなギャグキャラとして登場したんですが、柚原が武内の家に遊びに行ったときに不穏な発言をしています。





このシーンは、武内の柚原に対する嫉妬の感情が愚痴として漏れた場面、憎めない良い奴として描かれていた武内が描かれていない裏では劣情に苦しんでいたことがわかる、きつい場面です。彼はカバーの中では裏表紙、草間の影から柚原と黄路を見守っているんですが、この絵には武内の嫉妬の感情のようなものは感じられません。


武内君は黄路の異常性に少し気づいているきらいがあるんですが、そのことを柚原君に忠告したりしません。悪意はなくとも、柚原君への友人としての干渉が若干薄く感じられる場面もあります。

でもまあ、武内君は比較的まともで、問題は黄路と柚原です。






黄路は、非常に謎の多い人物です。

黄路は十年ほど前柚原の隣の家に住んでいて父子家庭の子、父が仕事で家を空ける間柚原と一緒に柚原姉と遊んでいたのだという。父の死をきっかけに親戚に引き取られたため柚原とはそこで分かれて以来、十年ぶりの再会となります。

黄路は独りぼっちになった柚原のもとに突然現れて強引なほどに献身的な行動をとります。あった次の日に弁当を作ってよこし、部屋の片づけをし風の看病をし、10年以上前に隣に住んでいただけの柚原に異常なほどに親切にふるまいます。ただかなりヤンデレの気があって武内から柚原への電話を勝手にとって携帯電話を破壊したり、勝手に家に侵入して合鍵を無断で作ったり、柚原が断りなく家を空けるといつまでも家で待ち自傷行為に走るという、まぁでもギャルゲーにありそうなベタな設定といえます。


これだけ見れば黄路は柚原に好意を抱いており勢い余ってヤンデレに走らせているのだと、解釈できます。



しかしこの黄路の行動は全て表面的なモノであるように思います。
黄路は柚原に対して好意を抱いているのか、はなはだ疑問です。それは黄路のヤンデレ行為が柚原を傷つけかねないということや、一話最後の駒の黄路のセリフの謎に加えて、こんな場面が作中何度も起きているからです。



合鍵を無許可で作っていたことが発覚する恐怖シーン


自分の強引な献身を柚原が受け入れると、黄路は喜ぶでもなく驚くのです。
黄路の行動が真に好意から引き起こされているのであれば、柚原に受け入れられることは本望のはずなのに、なぜか。

これは黄路が自分の強引的な行動によって柚原が恐怖してしまうだろうということを理解している、というかそれを期待しているのではないかと思うのです。黄路の真意は孤独な柚原を助けたいのではなく、虚構の善意と好意でもって柚原を押しつぶしてやることなのではないかと、一見甘い行為で柚原を圧迫する、「シュガーウォール」とはそれを指しているのではないかなどとも思うのです。一話最後の「柚原が黄路の父を殺した」という謎にも関係しているように思います。









そして、三人の中で最も異常性をはらんでいるのが主人公の柚原です。


オタクの友人、ヤンデレの幼馴染に挟まれて一番まともな人間っぽく見える柚原なんですが、人間的な欠陥を感じる瞬間がいくつも見られます。まず一つに、突然現れた記憶にしない幼馴染をすぐに受け入れてしまう、得体のしれない人間が作った弁当を食べてしまう、家に上げる、合鍵を作られても許す、柚原は黄路の侵犯行為に対して危機意識が異常に低い、というかないに等しい。何をされても受け入れてしまうし、それを疑問にも思わず踏み込んで考えようとしない。黄路の1巻最大のヤンデレ行為の後も、彼は何事もなかったように黄路と買い物などしている。黄路最恐のヤンデレ行為は、ぜひ単行本で読んで衝撃を受けてほしいっす。彼の周囲の以上に対する不感症っぷりは、気味悪ささえ感じます。


柚原の目には、武内はオタクな同級生、黄路は良くわからないけど親切かつちょっとヤンデレな幼馴染、としか見えていないのだろうか。柚原の目には「シュガーウォール」の世界は、単行本表紙のような痛気持ちいい青春モノに見えているのかもしれない、とか

記憶にない幼馴染がいきなり家に上がりこんできて、無断で友達の家に遊び行っただけで自傷行為に走るという状況に置かれて世界がこのように見える人間は、異常ではないでしょうか



「シュガーウォール」とは面倒なことを見ようとしない柚原の心のフィルターのことなのかもしれないとか、「表と裏の乖離」とか「世界の真実にあえて触れない人間の心の壁」というものが、この漫画の肝なんじゃないかなぁとか、本当にいろんなことを妄想させてもらえる作品です。


カバーを外すと中表紙が非常に嫌な仕様になってることに、今気づきました。怖ぇ





真意の見えない黄路と異常に盲目的な柚原の、死の臭いすらする表面的な関係性を「新感覚ラブストーリー」と称する単行本装丁と帯もまた、物語内の人間関係同様虚構だなぁと思うのです。もし出版社の方がそんな意図でこの装丁にしたのであれば、なんだか新しいなぁとか、詐欺まがいのジェノサイドだなぁとか、今まで漫画の装丁についてこんなにじっくり考えたことがなかったので、いろいろひっくるめて印象的な漫画だなぁと思った次第です。



一話最後の黄路のモノローグの意味とは、柚原が黄路のことを全く覚えていない理由とは、そもそも柚原姉は何で死んだのか、黄路はなぜ今になって帰ってきたのかなど、謎がたくさん残されていて、先の展開が楽しみです。

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この読切が面白い2013 ~その他出版社編~

数ある雑誌の中でもコミックリュウとかコミックビームなんかは長期連載作品が少なくて入れ替わりも激しいので、ほかの雑誌よりも読切が多いように感じます。

特にコミックリュウは「登龍門」という新人賞企画を何か月かに一回やっていて、自分が面白いと思った作品にネット・郵送で投票できるというシステムが面白くて毎回楽しみにしています。読切が多いのは、やはり楽しい。




コミックリュウ11月号『どろあそび』浅岡キョウジ



単行本『變愛』が発売されてにわかに注目を浴び始めた浅岡恭二先生の、単行本発売記念の読切。

人形のように綺麗な、クラスの男子からも注目の的である自慢の幼馴染をめっちゃくちゃの泥まみれにしたいという、ドロッとした情念





目力がすんごい。

単行本『變愛』も眼球嗜好癖をはじめとする歪んだ愛情表現をする人間の話がてんこ盛りで、ガロッとしてて良いです。





12月号『踊り場キッチン』中野でいち



前後編読切。母子家庭に育ち、母の身を削るような努力と心労の基に大学に進学した苦学生の主人公が、誰かから優しさを受けることを恐れるようになり、下宿生に朝昼晩の食事を善意で用意してくれる大家さんをも突き放してしまう。





パート疲れがたたって病床に伏せる母に対する、母から血肉を奪って生きることへの罪悪感に生きづらさを感じる主人公が、いかにして世間の優しさを受け入れ、かつ母娘の無償の関係を受け入れることができるようになるかという、大人への成長過程にある若者の悩みをえぐる読切でした。






中野でいち先生はコミックリュウの新人発掘企画「登竜門」にも登場したことがあって、その時に描いた『とらごころ』もすごく好きでした。



失恋のショックで体が虎になってしまった男が失恋の相手との関係に切りをつけ、嫉妬や憎しみから脱却した人間に戻ることができるかという「山月記」ネタです。とても丸っこくて線の太いタッチがかわいらしくて、あさりよしとお先生や手塚治虫御大にも似た「セクシーな丸さ」を持った、稀有な漫画家さんだと思います。普段は同人活動をされているそうですが、商業誌でももっとほかの作品読んでみたいです。





雑誌としての知名度が低く、書店によっては置いてなかったりもするコミックリュウですが、最近は人外を扱ったマンガが増えてきてケモナーの方々の注目を集めてますね。もっと有名になってしまえばいいと思います。






最後に、その他出版社をまとめて。


ヤングチャンピオン列8月号『収穫祭の女』茂木清香(もぎさやか)



アニメ化が決定しているアーススターコミックの『pupa』の作者・茂木清香先生の読切です。


足が根を張り髪が木の葉になり、蟲にその身を齧られる少女、少女を取り巻く人間社会の狂気じみた因習。



甘美である!


オーガニックなタッチで禁断の兄弟愛を描いた『pupa』のアニメがどんな感じになるのか非常に楽しみです。




週刊少年チャンピオン8月号『NOIRx2(ノワールエックスツー)』MIR(ミル)



120年の修行分の内功を秘めた秘薬を手に入れた二人組が、欲に駆られて友情を超えた熾烈な序列争いを繰り広げるという話。




ページの大半を占める戦闘シーンの躍動感、切り取り方が巧みだなぁと感じる一方で、物語の締めくくりも非常にクールでした。45ページと読みごたえもあります。







ヤングキングアワーズ11月号『君の声が聞こえない』鈴木小波(すずきさなみ)



『出落ちガールズ』の鈴木小波先生の、単行本発売記念読切。特定の音質・周波数?の音だけが聞き取れないという特異体質のいじめられっ子と、かれがまさに聞き取れない領域の声を持つクラスメイト、日常に静寂を求める二人は屋上で奇妙な時間を共有します。



次第に彼女の歌声を聴きたいと思うようになったいじめられっ子は、骨伝導でなら彼女の声を聴くことができるのではと気づき、すったもんだ等等…。





鈴木小波先生の描く物語は心が洗われるようないい話が多くて、とても好きです。






以上…



ネットで検索しても読切の感想って作品単体では結構あるんですが、まとめて数作品の感想を載せている記事ってあんまり見かけないなと思ったので、できるだけ詰め込んでやろうとしたらこんなアホみたいに長い記事になりました。


出版社様が無料で公開してる作品にはリンクをつけてみましたが、やはりそういう作品結構少ない、読切の一期一会感が高まりますね。既にいろんなところで連載を持っている漫画家さんも多いですが、ここにのっけた漫画家さんたちがいつかベストセラーな作品を発表するようになったら、そういやこの人こんな読切描いてたなぁと、このページを見て思い返したいですね。単行本特別収録みたいな形で再会できる日があれば、それが最良です。


そして来年までにはタブレットとスキャナーを買って、自分の好きな作品を手元においていつでも楽しむ・懐古することができる環境を整えておきたいなと思います。擦れてインクが薄くなってるのページが結構あって焦りました。



おしまい

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この読切が面白い2013 ~集英社編~


集英社は読切オンリーの季刊増刊やら、新人デビュー読切をまとめた単行本を出してたりしていて、雑誌の中でのインターバルとしての読切というより、一つの作品・商材として扱ってるイメージがあります。



別冊マーガレット8月号『氷のレイカさん』川井榮乃(かわいてるの)

冷静沈着で無表情な女子高生と、明朗快活な男子高校生のカップルという、それほど珍しくはない組み合わせの作品だったんですが、読後感が非常にすっきりしていてよかったです。ヒロインの名前「麗華」と、クールな性格を連想させる「零下」、そして物語のなかでの季節「冷夏」をかけたタイトル。



仏頂面で感情を表情に乗せることが苦手なヒロインが最後の最後で照れを見せて、なかなかに心温まるにやにや青春モノでした。









ウルトラジャンプ10月号『サテライトブルース』(木村聡)


衛星軌道を周回しながら他国の軍事衛星や不審な飛行部隊を迎撃する人造人間とAIのコンビ。軍事目的で開発されながらも不良品扱いされ宇宙に飛ばされた二人が、自由を手に入れるため人間に牙をむくというお話。周回軌道に二人きりという絶望的な孤独と、二人のシニカルな談話が軍人的な哀愁を帯びていて良いです。






ヤングジャンプシード


新人の読み切りばかりを集めた増刊、休刊中のミラクルジャンプ掲載作品の最終話が載ってたり、なんだかよくわからない増刊号でしたね。



『最後の一人』成瀬乙彦


学習・生殖・戦闘能力を兼ね備えたアンドロイドが新しい種族として人類を駆逐し、おそらく人類最後の人間になってしまった男が、まともに会話もできない戦闘用アンドロイドと砂漠を放浪する話。



ほかにも人が生き残っていないかと彷徨い、孤独にがっつり打ち負かされた男が生きるのを諦めようとするも、引き金を引くあと一歩の恐怖と、アンドロイドの純粋な防衛本能がそれをさせない。



辛い。


感情があるのかどうかも分からないアンドロイドに感情移入してなぜか生きる気力を引き起こしてしまう不器用なロボット愛と「地球に一人ぼっち」の要素が非常にツボでした。







アオハルジャンプ2013年9月20日増刊号




『あらしの空の思い出』今井哲也


とある惑星の衛星で作業していた主人公が事故で成層圏に落下、空力加熱で燃え尽きて死ぬかと思いきや重力うんたらイオンクラフトうんたらで、成層圏で奇跡的な浮遊状態に陥る電荷やらなんやらで主人公の浮遊空域を特定することが非常に難しく、救助が間に合わない・失敗する可能性を考慮して、最後の時間主人公の片思い相手との会話が許される。物理学に長けた彼女と奇跡的な浮遊現象の原因を憶測するうちに、現在おかれてる自分たちの状況運命的な何かを感じた彼女が主人公に秘めたる思いを告げるというアンビリーバボーな展開、和みました。



こういう場面で指笛ができる人材は貴重ですね。今井哲也先生はメルヘンチックな絵柄とドギツイ SF理論展開を混ぜ合わせた、読みやすいようで中身が詰まった、変わった漫画を描く人でとても好きです。『アリスと蔵六』が今年のメディア芸術祭新人賞だそうで、めでたい。




アオハルジャンプ同上『ATMの中の男』派手な看護婦

ATMの中でATM業務を手作業で行う、妖怪じみたおじさんの話

ATMの中の密閉された部屋で、小さな小窓から世界をちら見する、他人の消費の手助けをするだけの仕事を何十年も続ける男、金目的で結婚を迫ってくるチャイナ娘に世界への窓をこじ開けられそうになって、ビビッて閉じてしまう。

幼いころからATMの窓越しにその成長を見守っていた少女が強盗に襲われているところを命がけで助けるも、少女は男の顔を見たこともないのでATMの人とは気づかない。

それでも男はチャイナ娘と一緒に外界に出ることはせず、貯金も手放し、自分の存在が許されたATMの中で外の世界を眺める生活に戻っていくという、ハッピーともバッドとも言えない結末にグッときました。金を使って外に出ることへの恐怖と、金を守って居心地のいい閉鎖空間に留まることへの後ろめたさの板挟みに悩むという構図、読んでてヒリヒリしました。





アオハルジャンプ『フロイトシュテインの双子』ひよどり祥子

『死人の声を聞くがよい』のひよどり祥子先生、不死身のゾンビに改造された主人公が邪悪な双子兄妹の実験台としていろんな責め苦を受ける話。

子供の無邪気さと拷問実験という邪悪さを掛け合わせるえげつない手法はホラーでよく見かける気もするけれど、この読切はそのえげつなさがギャグとして笑い飛ばされているので読んでて愉快です。


あとホラー部分には全くかかわってこない主人公の女友達、不幸な目に合うわけでもないのに何故か顔に死相が出てて、作者の絵柄そのものがホラーとして完成されてるんだなぁと感じました。



とても普通な場面、普通の表情なのに、なんか陰があります。





アオハルジャンプの作品はアオハルオンラインで継続掲載されているものもあって、武富智先生の『The Mark of Watzel』とかすごい良いです。

最近無料で読める漫画サイト増えてきましたね、チャンピオンタップとか裏サンデーとか、紙媒体以上に更新日を把握して連載を追うのが難しく感じます。



最後、その他出版社編に続きます。

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この読切が面白い2013 ~講談社編~



講談社編です。

モーニングが一年間連続で毎週読切を載せる企画を始めましたね。毎週違う漫画家さんの全く違う世界に触れられる、雑誌を買うのが楽しくなるとてもうれしい企画ですよね。


加齢とゴスロリファッション、かつての理想と現実の境目に揺れる女性の心境を描いた『コンプレックス・エイジ』が無料公開され、ツイッターなどで反響を呼んでいましたね。一新人が描いた読切がこれほどの影響を生んだ理由は読切サイズでさらっと読める、無料である、スマホを使ってどこでも読めるというお手軽さにあったように思います。








モーニング52号『妄想少女』汐里
モアイで無料公開されています。



性根の腐った知性のかけらもない肉欲にまみれた獣のような人間に、清廉純潔な自分が献身的な愛を注ぎ続ければ、いつか美しい恋に目覚めきれいな人間に変身するはずだ、と歪んだ恋愛関係に身を投じている少女の話。


唯一の幸福が崩された男子教師の弁解のシーンは、自身の浅ましさを悔いる反省の心と保身に走る心が半々に混じり合っていて、潔さの全く感じられない獣の姿に見える。でも50%に満たないまでも反省の心が見え隠れしているあたり、このシーンは男性教諭が野獣から人間に戻れるか否かの境目にあたる場面であるように思えて、そこに少女が「薄汚れた獣」という理想を押し付けてくる。さしたる意図もなく発せられた少女の純粋な理想が、男性教諭が隠そうとした野郎の本章の部分を残酷にえぐるその感じ


出発点から歪んだレールに乗って物語が進んでいて、どこに行きついてしまうのか全く分からない、結末を見てもなおこの少女がその後歩む道を思うと不安な気持ちが消えない、そんな変わった読切でした。








goodアフタヌーン22号『心臓ちゃん』児玉潤



自分をいじめてくる不良の心臓が美少女に見えてしまうという設定



外見上は突っ張って威勢のいいことを言う不良君が、実は小心者の美少女心臓の持ち主というギャップにやられ、いじめられっ子が信三ちゃんに恋をしてしまうという不穏な展開から、美少女心臓ちゃんは不良の心臓でしかないということに気づいて失恋し、弱弱しい心臓ちゃんのために自分の心に合ったおとなしい生き方をするように不良に訴えるいじめられっ子。



そして衝撃のエピローグ



友情やら初恋やら、いろんな倒錯的な感情が交じって人間関係が変化していくさまがとても面白かったです。







goodアフタヌーン38号『ハニートラップ』交田稜



コミック版『ビブリア古書堂の事件手帖』の交田稜先生、変態ウツボカズラ妹による食虫嗜好を見守る兄。



珍妙な植物を観察することと、目の前で奇行を繰り返す妹を見守ることに同種の愉しみを感じつつ、そんな状況に慣れてしまった兄妹が更なる奇行に踏み込んでしまう様子を、さらっと冷淡に描いているのが面白いです。
蜂ノ子系ワームを次々と口に運ぶ妹に一線を越えかねない感情を抱きつつ、食虫植物ウツボカズラへの興味にたとえながらその感情を何とかごまかす兄、そんなギリギリのプレイにそわそわします。





妄想少女もちばてつや新人賞でしたっけ、期せずして性的なのばっかりになってしまいました。




集英社編に続きまっす。

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拳死狼
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